月村了衛の月録

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一期一会 山田風太郎先生の思い出(五)

(承前)
紙幅の都合で当然ながら全部は誌上に収録されていないが、このインタビューでは本当にいろんなお話を伺った。
聞き手の馬鹿学生(私です)は勝手なもので、
「現在手に入らないものも結構あるんですよね、『外道』とか『飛騨』とか古本屋をまわっても全然手に入らない」
と、当時入手困難だった忍法帖についても訊いている。
先生のお答えは、
「はあはあ、気にくわんから出さないんですよ。もう、永遠になくしたいですね」
というものであった。
(この部分は一部誌上に掲載されているが、先生の当時のお考えを記録する意味でもここに改めて記しておく)
それに対する私のリアクションは、
「えー、出してくださいよー」
という、もうまったく先生に甘え放題の馬鹿成分増量状態。
馬鹿ではあるが、それが当時のファンの偽らざる気持ちであった。
その後『外道忍法帖』も『飛騨忍法帖』も(ファンには)めでたく文庫となった。
しかし作家としてあの時の先生のお気持ちを思えば、少々申し訳ない気もする。
ちなみに、このインタビューの数年後の時期、私はまだ入手困難であった『飛騨』を廃業した地方の貸本屋(古本屋ではない)で発見し、店主の老婆から譲ってもらった。埃と手垢で真っ黒になったその本は私のコレクション中の逸品であったが、読む前に文庫で出た。
世の中そんなものである。
(続く)