月村了衛の月録

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一期一会 付記・其の二「季刊 幻想文学」

先生はすでに物故され、もう再びお目にかかることはない。
まさに一期一会。
思えば千載一遇の機会を与えてくれた東雅夫さんと「季刊 幻想文学」に感謝するばかりである。
その後を話すと、当時の私は映画・演劇と登山にのめり込むあまり、文学方面での研鑽が少々疎かになってしまった。
幻想文学会とも交流はなくなった。
そしてあっという間に現在に至る。(と書けば一行で済むが、その間の年月とアレコレの膨大さよ)
しかし「幻想文学」だけは毎号買い続けた。年に四回の楽しみであった。
どれくらい熱心な読者であったかと言うと、これは卒業の前後の年であったと思うが、
夜にバイトを終えて帰宅しようと乗った山手線の中で、購入したばかりの「幻想文学」最新号を読みだしたところ、うっかり下車すべき駅を乗り過ごしてしまった。
「しまった、でも、まあいいか」と下りだったか上りだったか、ともかく反対方向に飛び乗って続きを読み始めた。
すると、気がついた時にはまたも駅を乗り過ごしていた。
「しまった」と再びホームの反対側の列車に乗る。
賢明な読者はすでにお察しのことであろう。さらに賢明な読者は「そんな馬鹿がいるか」と思われるかも知れないが、この夜私は「幻想文学」を読み耽るのあまり、山手線の上りと下りの行ったり来たりを繰り返してしまい、遂に終電が尽きて帰宅できなくなってしまったのである。
残念なことに「幻想文学」は2003年の六十七号をもって終刊となった
私が同誌の存在を知った時には創刊号の在庫はすでになかったので、現在私の手元には二号から終刊号までの六十六冊のバックナンバーがある。
まさに宝である。