(承前)
先生は、忍法帖は長編よりも短編の方が「わりとクズがないと思っている」と語っておられた。
私は長編も大好きだが、確かにその奇想において短編はいずれも大風太郎ならではの作品が揃っている。
お話を伺っている内に、「長編の内で、気に入っていて、まあまあというものが五つくらいですかね」というお言葉が飛び出した。
すかさずその内訳を訊いた。その五作とは、
『魔界転生』
『くノ一忍法帖』
『忍びの卍』
『甲賀忍法帖』
『忍法笑い陰陽師』
であった。
(番外として『柳生忍法帖』の十兵衛が城に乗り込んでくるシーンを挙げておられた)
『魔界』『くノ一』『甲賀』あたりは万人が首肯されるであろうが、長編自薦作に『笑い陰陽師』を挙げるあたりがいかにも先生らしい。私は思わず大納得したものであった。
忍法帖以外の自薦作は、
『妖説太閤記』
『妖異金瓶梅』
『警視庁草紙』
とのこと。(これまた全く大納得である)
そしてこの三編に『魔界転生』を加えた四作が、(インタビューの時点での)先生の代表作であるとのことであった。
そしてインタビューは終わった。
帰りは駅まで先生の奥様が車で送ってくださった。勿体ないことである。
京王線の車中で、東雅夫さんが、
「自薦ベスト作が訊けたのは収穫でしたねえ」
と何度も言って下さった。それもまた私にはとても嬉しかった。
いずれも得難い思い出として、今日まで私の胸の内に残っている。