月村了衛の月録

小説家 月村了衛の公式ブログ        連絡先 fidenco@hotmail.co.jp 

台風の夜に

窓の外では強い風雨が吹き荒れているが、こっちはもうそれどころではない。

数本の連載に読み切り、短編、新作の準備と、かなり厳しい状況である。

 

こういうときに限って、全然関係ない『機忍兵零牙』続編のアイデアが次々と湧いてくるので、それらを書き留めるのに全く以て実に忙しい。

かくして仕事が一向に進まないというオチ……

だが。

第一作刊行直後から構想しているのでもう大枠はすっかり出来上がっている上に、

最後まで隠されていたラスボスの大技とその返し技、続けて予想外のラスボス「奥の手」とそこからの逆転方法まで思いついた。

2022年9月現在、発表の予定無し。

緒方知三郎

現在〈謎の女中お眠さん〉シリーズ第三作を執筆中なのですが、

山田風太郎の各種資料を確認しているうち、東京医科大学の卒業証書の写真を見つけました。

学長は緒方知三郎で、初代東京医科大学学長にして、若き医学生であった山田風太郎を大いに感服せしめた人物でもあります。

医者で「緒方」という名が示す通り、知三郎は緒方洪庵の孫に当たります。

声優の緒方恵美さんが緒方家の分家筋であることは以前に御本人から聞いていたのですが、こういうところで繋がってくるとは、縁(えにし)というものを感じずにはいられません。

 

また講談社山田風太郎の担当であった原田裕さんのお話(「別冊太陽 山田風太郎」より)によると、原田さんが文芸課長時代に『妖異金瓶梅』を担当したのが新井亨さんで、この人は東大時代に星新一と同級で、さらにその御嬢様が新井素子さんであるとのこと。

ただただ驚くばかりです。

さらに。

原田さんは日本推理作家協会の物故会員で、2018年に亡くなっておられますが、

講談社を退社された後、出版芸術社を興しておられます。

つまりこの方がいらっしゃらなければ、日下三蔵さんの企画による「ふしぎ文学館」もなかったかもしれないわけで、いろいろと感慨深いものがあります。

 

こうして感慨に耽っていて、肝心の仕事が一向にはかどらないというオチ。

大下宇陀児

最近大下宇陀児が一部界隈で話題となっているのは実に欣快の至りである。

思い起こせばこのブログを始めて間もない2010年10月3日、「大下宇陀児邸」と題する文を草した。

最近、大下宇陀児雑司ヶ谷に住んでいたことを新たに知り、またも驚く。何を隠そう、私が三十代の頃住んでいたのも雑司ヶ谷であったからだ。まったく個人的な感慨ではあるが、思わぬ奇縁を感じた次第。

 

戦後の推理文壇で有名な論争については知っていたが、顧みると、現在の自分の考えが大下宇陀児に近いことに気づき、改めて感じ入る。(私はパズラーも大好きであるが)

 

さらに幼年期の記憶を探れば、父は戦後ラジオの人気番組であった『二十の扉』を聴いていたらしく、寝る前にそのゲームをやってくれたことをこの歳になって思い出した。

大下宇陀児がその番組のレギュラーであったことは、はるか後年まで知らなかった。

 

創元推理文庫からこのたび発売された『偽悪病患者』は予約して購入。続く『烙印』も予約済みである。

新装版『無防備都市 禿鷹Ⅱ』文庫解説

先日私が執筆致しました逢坂剛著『無防備都市 禿鷹Ⅱ』の解説が以下のページで読めるようです。

頭突き合戦で確かめ合ったハードボイルド作家、先輩・後輩の絆!? 『無防備都市 禿鷹II』(逢坂 剛) | 書評 - 本の話 (bunshun.jp)

 

作品鑑賞のお供によろしければ是非どうぞ。

週刊誌を激励する

私は現在、「週刊大衆」で『半暮刻』を連載しているが、これまでさまざまな週刊誌で連載させて頂いた経験から、各誌それぞれに特色、個性があることを改めて実感した。

小説の連載という形で関わることがなければ、知らないままとなっていただろう。その意味では、とても貴重な経験をさせて頂いたと感謝している。

 

各エピソードはいずれ稿を改めて書く機会もあるだろうが、ここで強調しておきたいのは「週刊誌の記者は実に実に大変な仕事である」ということだ。

張り込み、尾行、勘の閃き、情報収集のためのあれこれ……まさにハードボイルドな私立探偵さながらの激務で、体力的にも精神的にも、私にはとても務まらないと思う。

 

私は近年、現代史に材を採った作品を手掛けることが多いが、その過程で、週刊誌が果たした功績――具体的には事件の端緒をつかんだ大スクープ、丹念な取材による真相の追究など、まさに歴史を作ってきたと言っても過言ではない役割を果たしてきたことを改めて学んだ。

それこそ「知らなかった!」という驚きの連続だったのである。

 

そして現在。世界は大きな事件にかつてないほど揺れている。

テレビ・新聞等のメディアの中には、ジャーナリズムにあるまじき日和見、事なかれ主義に閉じこもっている社も見受けられる。それはメディアとしての自死である。ただの自死ではない。社会を巻き込んだ無理心中に等しい罪だ。

メディアが報じるべき事を自らの意志で報じない。かつては想像もできなかった事態である。

なんと恐ろしいことか。

そんな状況であるからこそ、週刊誌の活躍に強く期待し、エールを贈っておきたい。

猛暑とコロナが蔓延る中、本当にご苦労様です。

 

スクープ記事だけではない。

エロ記事にもヤクザ記事にも、厳然として需要がある。それを切実に必要としている人々が存在する。そして社会を本当に支えているのは、実はそうした人達であったりもするのだ。

私もそうした人達について忘れることなく、執筆に取り組んでいきたいと思う。

 

各誌編集部の皆様、これからもどうか頑張って下さい。

飛び立った鷲への祈り

ミステリマガジン九月号にジャック・ヒギンズ追悼文を寄稿しました。

 

その文中にとんでもないミスがあり、見本誌を読んでいて椅子から飛び上がってしまいました。

「イギリスはNATOから離脱し」とあるのは言うまでもなく「EUから離脱」の間違いです。

追悼文の中でこのようなミスをしてしまうとは、故人に対し弁明のしようもありません。

すべては私の責任ですので、故人と読者に対し、心よりお詫び申し上げます。

無防備都市 禿鷹Ⅱ

文春文庫8月3日発売の『無防備都市 禿鷹Ⅱ』の解説を書きました。

言わずと知れた逢坂剛さんの禿鷹シリーズ2作目で、文庫新装版となります。

 

ハードボイルド派の大先輩の作品であり、前回の文庫化時、碩学の諸氏によって解説され尽くしておりますので、今さら私如きが、と思ったのですが、今回は「後輩作家によるエッセイ」というコンセプトであるとのことでお引き受けしました。

(『地底の魔術王』とほぼ同じパターン)

 

『地底の魔術王』解説は、乱歩がすでに歴史上の人物になっていることもあって、まあやりたい放題にやったわけですが、その結果(かどうか知りませんが)読まれているんだかいないんだかサッパリ分からないまま今日に至っております。

 

というわけで今回は無謀にも『無防備都市』解説に挑んだわけですが、言うまでもなく逢坂さんは現在も第一線で活躍しておられる現役であり、書き終えてから「これは逢坂さんから大目玉を食らうのでは……」と震えていたのですが、幸い逢坂さんには気に入って頂けたようでほっと胸を撫で下ろした次第です。

それどころか、丁寧な直筆のお礼状まで頂いてしまいました。自家製の絵はがきで、印刷されている写真は、イカすガンマンスタイルの逢坂剛ポートレート

我が家の家宝がまた一つ増えました。