月村了衛の月録

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地底の魔術王

四月二十六日、新潮文庫より発売される『地底の魔術王 私立探偵明智小五郎』の解説を執筆致しました。

言わずと知れた少年探偵団シリーズの一冊で、今さら私如きが解説する要は何もなく、並み居る研究者を差し置いて書ける筈はさらさらなく、一旦はお断りをしたのですが、このシリーズは研究者・評論家ではなく作家が自分のやり方で解説するということで、言われてみれば確かに既刊の解説は錚々たる方々がそれぞれに独自の技を発揮しておられます。

 

そこでお引き受けすることにしたのですが、私の技(芸)を発揮した結果、

月村了衛作品中の最高傑作が爆誕してしまいました。

(『デス・スモウ2019年』とかお好きな方は必読です)

 

正直に申し上げて、新潮社方面から激烈なお叱りを頂くかと思ったのですが、

そういうこともなく、かといって特に絶賛されることもなく、担当者(厳密には直接の担当ではありませんが)とはごく淡々としたメールのやり取りのみでした。

 

まあソレはソレとして、作品の歴史的価値はすでに確定しておりますので、作品冒頭の数行を読まれてから、戯れに解説を眺めて頂ければと存じます。

新潮文庫のシリーズは表紙もとてもいい感じです)

 

それにしても、「新潮文庫編集部の青木」(実在)は、いくらなんでも飛び道具に過ぎたのではないかと思わぬでもありません。反省はしていません。

 

 

『脱北航路』

タイトルからも明らかなように、

王道にもほどがあるだろうという、正統的正統派正統海洋冒険小説

 

「現代では冒険小説の定義は失われている、もしくは読者の間で共有されていない」というのは私のかねてよりの持論ですが、様々な問題を含むジャンル論はいずれ改めて書いておきたいと思いつつ、

本作は! 本作だけは! あらゆる人に! 熱く、熱く読んで頂きたい!

 

日本冒険小説史上(おそらくは)例のない手に汗握る迫真の潜水艦戦ですが、

執筆に当たっては複数の専門家の協力を仰ぎました。

しかしどなたのお名前も記すわけには参りません。

その理由はお読み頂ければお分かりになろうかと存じます。

この場にて専門家の皆様に心より御礼を申し上げる次第です。

 

『脱北航路』四月十二~十三日、全国で発売予定。

出航の刻は近い。

シャーロック・ホームズの建築

新刊情報でこんな本を見つけた。今日はいい日だ。

2/22、エクスナレッジから刊行予定。

〈案件の先生〉こと北原尚彦さんの案件というか著作である。

(ちなみに、北原さんは『北原案軒』に改名するといいのでは、と密かに考えている)

人並みにホームズ好きであり、また広く物件(建築物)に目のない私にはまさにカツカレーの如き合わせ技。

しかも英国のカントリーハウスや邸宅は特に好物なので、カツカレーにイングリッシュ・ブレックファストがついてくるようなもの。

速攻で購入予定に加えました。

第68回江戸川乱歩賞・第一回警察小説新人賞

第68回江戸川乱歩賞の締切は一月末日、第一回警察小説新人賞の締切は二月末日です。

どちらも新しいすぐれた作品との出会いを心待ちにしております。

どうか奮ってご応募下さい。

 

乱歩賞選考委員の任期は四年(日本推理作家協会代表理事を除く)で、

私は今年で最後となります。それだけに今回どんな作品と出会えるか、楽しみでなりません。

なにやら前回の私の選評がいろいろ憶測を招いているようですが、今後の応募者のために一言。

受賞作の刊行直後に発表された杉江松恋さんの書評の中で、私の選評についても触れられておりますので、ご一読をお勧めします。

作者が楽しんで書いているのがよく分かる一作――杉江松恋の新鋭作家ハンティング『老虎残夢』 | カドブン (kadobun.jp)

杉江さんも私も、受賞作に大いにエールを贈るものです。

字数制限のため深くは触れられなかったことについて杉江さんが補足してくれています。

それは小説観に基づくものですので、異論のある方もおられるでしょうが、私達はそれぞれの信念に従い、作品を書き続けるしかありません。

 

私の作品を愛読して下さっている方のために一点だけ付言いたしますと、かの選評は過去の私の発言と矛盾するものではなく、むしろ補完するものです。

「ブーム」「ムーブメント」「トレンド」、そういった言葉は使いたくありませんが、そうしたものに安易に便乗し、消費することが、現実に存在する差別をなくすことにつながるとは限りません。むしろ逆に働くことを懸念します。

実際に、私は過去の様々な「ブーム」がそうした好ましからざる結果を引き起こした例をいくつも体験してきました。

「百合に救われた」と自ら語らざるを得なかった創作者は「本物」だと思います。

少なくとも私の感覚が痛いほどそう告げています。「本物」には心より敬意を払います。

私はその感覚に従って作品を書き、また、選考委員として作品を選考します。

私がどこまで「本物」に迫り得るか、それは果てのない長い旅ではありますが、小説を志す者は皆それを厭うものではありません。

私はそう信じています。

 

ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク

訳者の柳下毅一郎さんから献呈頂きました。

マストバイの映画本。

佐藤重臣さんがやっていた新宿の黙壺子フィルム・アーカイブ

ピンク・フラミンゴ』『フリークス』の二本立てを観たときのことは忘れられません。映画館なのか倉庫なのか分からないような場所で、確かパイプ椅子だった。

柳下さんも同じ頃ここでこの二本立てを観たと後に知り、なんだか隣に座っていたような気がしてならない(もちろん妄想であり、ディック風に言うと模造記憶)。

 

本書は国書刊行会の本で、編集は樽本周馬さん。

拙宅にはこの方のお造りになった本が山のようにあるので

(一冊だけでもすでに山。『サイレント映画の黄金時代』など、やわな組立式書棚など破壊し尽くしてくれるわという殺意さえ感じる)、

思えばずいぶん〈国税〉を払ってきたものである。

読書人が「積極的に払いたい」と思える税は国税だけでしょう。

『白骨街道』の表紙

例の「月村作品表紙コワすぎ問題」ですが、『白骨街道』に関しては

「思ったより恐くない」「作品に合っていて良い」「とても素晴らしい」等々

ご好評を頂いておりますが、実は――

私が一押しの表紙候補写真が他にございまして、早川書房社内の皆様のご意見を伺いましたところ、

「手に取りにくい表紙は避けたい」

「ほかの頭蓋骨にくらべて肉がついている感じが生々しい」

「怖すぎる、とにかく怖すぎる」

「これだけはやめてほしい」

ともう散々な言われようでした。

新規の読者に敬遠されるような事態があっては本末転倒ですので、私も異議なく同意した次第です。(実際に使用された写真も気に入っておりまして、結果としてこれでよかったのだと思っていますが、未使用バージョンのインパクトたるや)

裏話ならぬ表紙の話でした。


現在発売中の『ビタートラップ』表紙は禍々しさのカケラもないとても洒脱なテイストですので、皆様どうかお気軽にお求めになって下さい。