月村了衛の月録

小説家 月村了衛の公式ブログ        連絡先 fidenco@hotmail.co.jp 

資料

作品執筆の際には膨大な資料を読む。そのために普段から収集を怠るわけにはいかない。

しかし、現代の国際情勢は常に大きく変動している。

特にニューヨーク同時多発テロの前と後では世界が一変し、買いためた資料の多くが反故と化した(もう古い話かもしれないが、事件の記憶は風化させてはいけないと思う)。

今も継続中のウクライナへの侵略戦争では、ロシア情勢が大方の想像を超えて大きく変化した。これからは新しい資料が必要となってくる。

にもかかわらず――

『未亡旅団』執筆当時のチェチェン情勢は今も変わらず、カディロフ大統領とカディロフツィは当時と同じく暴力による圧政を続けている。のみならず、プーチンの尖兵となって世界のニュースを賑わせているではないか。

その変化のなさに暗澹たる気分になる。

『十三夜の焔(ほむら)』

公儀先手組の幣原喬十郎。元盗賊にして今は両替商の銀字屋利兵衛。

身分も境遇も異なる二人の男の、五十年に及ぶ愛憎の歴史。

 

喬十郎と利兵衛――二人の相克を主軸に、次第に明らかとなっていく幕府の闇。

そして二人に関わる幾多の英傑。

長谷川平蔵の残した謎を、遠山金四郎が解く伝奇の浪漫よ。

とくと御堪能あれ。

 

十月二十六日、集英社より刊行予定。

(「小説すばる」連載・『十三夜の鬼』改題)

台風の夜に

窓の外では強い風雨が吹き荒れているが、こっちはもうそれどころではない。

数本の連載に読み切り、短編、新作の準備と、かなり厳しい状況である。

 

こういうときに限って、全然関係ない『機忍兵零牙』続編のアイデアが次々と湧いてくるので、それらを書き留めるのに全く以て実に忙しい。

かくして仕事が一向に進まないというオチ……

だが。

第一作刊行直後から構想しているのでもう大枠はすっかり出来上がっている上に、

最後まで隠されていたラスボスの大技とその返し技、続けて予想外のラスボス「奥の手」とそこからの逆転方法まで思いついた。

2022年9月現在、発表の予定無し。

緒方知三郎

現在〈謎の女中お眠さん〉シリーズ第三作を執筆中なのですが、

山田風太郎の各種資料を確認しているうち、東京医科大学の卒業証書の写真を見つけました。

学長は緒方知三郎で、初代東京医科大学学長にして、若き医学生であった山田風太郎を大いに感服せしめた人物でもあります。

医者で「緒方」という名が示す通り、知三郎は緒方洪庵の孫に当たります。

声優の緒方恵美さんが緒方家の分家筋であることは以前に御本人から聞いていたのですが、こういうところで繋がってくるとは、縁(えにし)というものを感じずにはいられません。

 

また講談社山田風太郎の担当であった原田裕さんのお話(「別冊太陽 山田風太郎」より)によると、原田さんが文芸課長時代に『妖異金瓶梅』を担当したのが新井亨さんで、この人は東大時代に星新一と同級で、さらにその御嬢様が新井素子さんであるとのこと。

ただただ驚くばかりです。

さらに。

原田さんは日本推理作家協会の物故会員で、2018年に亡くなっておられますが、

講談社を退社された後、出版芸術社を興しておられます。

つまりこの方がいらっしゃらなければ、日下三蔵さんの企画による「ふしぎ文学館」もなかったかもしれないわけで、いろいろと感慨深いものがあります。

 

こうして感慨に耽っていて、肝心の仕事が一向にはかどらないというオチ。

大下宇陀児

最近大下宇陀児が一部界隈で話題となっているのは実に欣快の至りである。

思い起こせばこのブログを始めて間もない2010年10月3日、「大下宇陀児邸」と題する文を草した。

最近、大下宇陀児雑司ヶ谷に住んでいたことを新たに知り、またも驚く。何を隠そう、私が三十代の頃住んでいたのも雑司ヶ谷であったからだ。まったく個人的な感慨ではあるが、思わぬ奇縁を感じた次第。

 

戦後の推理文壇で有名な論争については知っていたが、顧みると、現在の自分の考えが大下宇陀児に近いことに気づき、改めて感じ入る。(私はパズラーも大好きであるが)

 

さらに幼年期の記憶を探れば、父は戦後ラジオの人気番組であった『二十の扉』を聴いていたらしく、寝る前にそのゲームをやってくれたことをこの歳になって思い出した。

大下宇陀児がその番組のレギュラーであったことは、はるか後年まで知らなかった。

 

創元推理文庫からこのたび発売された『偽悪病患者』は予約して購入。続く『烙印』も予約済みである。