去る五月二十八日、日本推理作家協会賞贈賞式が行われ、私も出席致しました。
受賞者の皆様、改めましておめでとうございます。
さて、二次会会場に赴いた私は案内された席に座ったのですが、
背後のスペースはかなり高くなっており、濛々と紫煙が漂っております。
どうやら喫煙スペースのようで、ダークスーツを着た男達が三、四人くらいで
立ったまま無言で煙草を吸っておられます。
薄暗い照明だったのですが、よく見るとKADOKAWAの遠藤さん(文芸・ノンフィクション局の偉い人)の顔が見えたので、同社の編集者の皆様であったのでしょう。
私の位置から見ると、アオりの逆光、しかもスモークが焚かれたような効果があって、
大変にキマっております。
よせばいいのに、私は振り返って申しました。
「そっちのスペースだけ空気が『孤狼の血』みたいですねー」
すると中の誰かがすかさず
「それは遠藤さんだけです!」
遠藤さんは一瞬ニヒルな笑みを浮かべ、ただ黙々と煙草をふかしておられました。
それにしても――
人は何故、原稿の締切が切迫してくると
かくも無用なる文章を草してしまうものであろうか。