月村了衛の月録

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デス・スモウ2019年

いよいよか――

土俵に上がった力士は、横目で枡席の方を見た。

その日のために設置された椅子に座ったトランプが、馬鹿のような薄笑いを浮かべてこちらを退屈そうに眺めている。

国技たる相撲の伝統からすれば、絶対にあってはならぬ光景であった。

この日のために、ワシは――

「はっけよーい……」

行司の声も、もう聞こえない。

今だ――

土俵を駆け下りた力士は、驚愕する相撲協会関係者を尻目に、トランプ目指して一直線に突進する。

長年鍛え上げた必殺の張り手ならば、トランプを一撃であの世へ送ることなど造作もない。

護衛の黒服がたちまち十人以上も立ちふさがるが、命を捨てた力士の猛進を止められるものではなく、紙屑の如くに片端から蹴散らされる。

その巨体を持て余したかのように、トランプがのろのろと立ち上がった。

逃がしはせぬ――

「お命頂戴仕るッ!」

憎き相手に繰り出された渾身の張り手。

しかし――

それを紙一重で躱したトランプは、力士とがっぷり四つに組み合ったのだ!

組んだ瞬間、力士は相手の力量を悟っていた。

つ、強い――!

屈強の関取を相手に、トランプは一歩も退かぬ。

全世界瞠目の大一番がここに始まった!