月村了衛の月録

小説家 月村了衛の公式ブログ        連絡先 fidenco@hotmail.co.jp 

雑記

・分かる人は本当に分かってくれていると実感できるときほど、小説家にとって嬉しいときはない。
『機龍警察』は、自分では映像化にはまったく不向きな作品であると考えている。
当然だろう。
『機龍警察』の核心は、複数の勢力によるパワーバランスのせめぎ合いにある。
もちろんそれは、個人の情念を炙り出すための装置であるわけだが、
そうしたせめぎ合いは、実は最も映像で表現しにくいものであるし、
作中でも常に緊張感を持たせられるよう細心の注意を払っている。
何よりこの作品は、〈小説〉として言葉で表現されたものなのだ。
自明の理である。
表層しか見えない人にはそのことが分からない。
しかし、本読みの玄人として世間から一目も二目も置かれているような人々は、
それくらいのことは当然のリテラシーとしてちゃんと読み取ってくれている。
そういう人々と会話していて、「あれは小説ならではの凄さですね」などと言われると本当に嬉しいし、また大いに励まされる。
〈分かってくれる人がいる〉。その思いに私はどれだけ支えられていることか。

・しかし、作品はまた読者のものである。
読者が『機龍警察』という作品をどのような形で楽しもうが、私は一向に気にならない。
それは読者個々人の楽しみである。末永く大いに愉しんで頂きたい。
故に私は、公式なビジュアルを設定するつもりは一切ない。
小説にそんな物は不要であるし、無粋の極みであると考える。