月村了衛の月録

小説家 月村了衛の公式ブログ        連絡先 fidenco@hotmail.co.jp 

一期一会 山田風太郎先生の思い出(二)

(承前)
何しろこちらは入学一ヶ月の身で、最も尊敬する作家に会えるのである。
思いもよらぬ僥倖であった。
(その後私は今日に至るまでに各界の錚々たる名士の知遇を得てきたが、最初に会ったのが大風太郎であったため、誰に会ってもさほどの感銘を受けなくなってしまった。これは幸と言うべきか不幸と言うべきか)


インタビューの趣旨は、「幻想文学」五号の伝奇ロマン特集のため、当時朝日新聞に連載中だった『八犬伝』を中心に伺うというもの。
(従って同インタビューの前半は主に東さんが『八犬伝』について伺い、後半は主に私が忍法帖について伺っている)

そして、当日。
新宿駅に集合したのは、私と東さん、そしてカメラマンの総勢三人。
京王線聖蹟桜ヶ丘に向かう。車中、東さんは朝日新聞の『八犬伝』の切り抜きを束ねたものを一心に読んでおられた。
時間より早く着いたので、しばらく近くの公園で時間をつぶすことになる。
雨上がりの曇った午後。住宅街の中の公園で、東さんはベンチに座って切り抜きの続きを読み始めた。私は自販機で買った乳酸菌飲料を飲んだことを覚えている。

頃合いを見計らって山田邸へ。
先生はまだおやすみであるという。
玄関近くの応接室に通された我々は、しばらく先生をお待ちした。
やがて先生が入ってこられた。
そして私は、三十年たった今も忘れられぬ、ある衝撃の<もの>を目撃するのである-----
(続く)